ブリード(再昇華)のメカニズム
なんか、このテーマについては何度も書いている気がしますが(笑)
こうして何度も書くってことは、それだけブリードに対するお悩みのご相談が尽きないという事。そして加えて「ブリード対抗インク」を謳いながら、厄介なインクを販売しているところが懲りていないという事です(笑)
さて「メカニズム」と書いてしまったからには(笑)それ相当の覚悟を持って図式化しました(笑)
順を追って説明しますが、まずは結論から。
「ポリエステル生地のブリード(再昇華)。するものはします。100%止める事なんて絶対にできません」
上の図。たいそうな事を言っておきながら円を何個も書いただけ(笑)
この白○一つ一つをポリエステル繊維を形作っている分子だと思ってください(笑)
図1は常温の状態とします。ポリエステルの分子は規則正しく並んでいますが、ポリエステルの性質上、その分子同志はそんなに強い力で結びついている訳ではありません(詳しくはなんらかの文献でご確認下さい)。
そして、このポリエステルに高温を与えるとどうなるかと言うと
分子どうしが離れ始めます。
その昔、教科書の中で氷から水に変わる時にこのような絵を見た事が有るような無いような(笑)
大体はそれと同じような理屈です。エネルギーが増えた分子は動き出す、ってこと。
さて、ここに染料をとある方法でくっつけますと、こうなります
赤丸が染料の分子です。
上手く作れませんでしたが(笑)動いて空いたポリエステルの分子と分子の間にズボっとはさまります。
これが、ポリエステルに昇華染料を使用した染色方法のざっとしたあらましです(笑)
お分かりいただけるように、染料の接着には何も使用しません。ポリエステル繊維分子同志の結合力も弱ければ、染料も挟まっているだけです(笑)難しい事を書けば分子間力・ファンデルワールス力などの説明をしなければならなくなりますが割愛(笑)
さて、世の中には次のような間違った説が有ります。
「熱乾燥しなければブリードはしない」
半分あたりで半分間違いですね。
図3の状態から再度熱をかける事でまたまたポリエステル分子同士は隙間が空いてしまい、そこからポロっと染料が取れてしまいます。そこにインクがくっついているのですから、インクの接着力で染料は移動してしまいます。なので半分は正解です。
図の上側がポリエステル生地の表面(インクが乗る面)だとすると、緑に塗りつぶした染料がインクに触れてしまいます。
さぁ、ポリエステルと染料の結合力、これとインクと染料の結合力、いずれが大きいでしょうか?
インクが生地に接着するという事は、インクの樹脂と生地がお互いに引っ張り合っている状態です。インクの樹脂は常温でも染料を引っ張り続けているのですから、染料がインクへ移動してしまいます。綿100%の生地でこのようなブリードが起きない理由は、染色方法に反応染料が使われており、綿の分子と染料の分子を化学結合させているからです。
ポリエステルの染色方法である熱昇華染色法は化学結合を行っていませんから、遥かに強い接着力であるスクリーンインクは染料を引き剥がし移動させてしまいます。
「そんな馬鹿な!」とお思いのそこのあなた(笑)
では、こんな実験をしてみて下さい。
確実にブリードしてしまいそうなポリエステル100%の生地2枚に、熱圧着ラバーシートを完全に熱プレスしてみて下さい。
そして1枚は冷えたらすぐに、リムーバーMWなどを使って剥がす。そしてもう一枚は数か月後に同じようにして剥がしてください。
すぐに剥がした方は、多少生地の色が薄くなっています。そしてもう一方は・・・・・
熱がない時にも染料の移動が起きていることが確実にわかると思います。
「ラバーシートが冷えた後は、感熱接着剤の接着は終わっているじゃないかぁ!」という反論は無駄でございます(笑)
2つの物体がくっついている状態は「常に引っ張り合っている」状態なので。
以上がブリードのメカニズムです。でも、これで終わってしまっては面白くないので(笑)
ブリードに対抗するインクは昔から用意されていましたが、
- インクに発泡剤を混合し、いかにもインクの隠蔽性を上げたかのように見せかける
- プラスチゾルインクの可塑剤の種類を選定し、ブリードの時期を遅らせる
- 顔料を大量に混合させてごまかす
など、根本的な解決法は取られていませんでした。冒頭にも書いた通り、完全に止めらる訳がないブリードなのですが、もっと良い方法は無いものでしょうか?
次号に続きます(笑)