「塗る」から「落とす」へ
ご相談をいただく際の会話の中で、印刷の様子を「インクを 塗る」と表現される方がいらっしゃいます。
そしてご相談の主な内容の多くは次のようなものです。
- 濃いインクはありませんか?
- 印刷が滲んでしまうのは何故でしょう?
- 1枚目と2枚目の印刷位置が微妙にずれるのはどうやったら解消できますか?
考えればきりがないほどたくさんの表現がありますが(笑)この位にしておいて。
何故「インクを塗る」という表現になるのかと言うと、版を直置き(ベタ置き)にして印刷している場合が多く、そうではなくオフコンタクト(版と印刷物に隙間を作る)を取っていたとしても、版のテンションが全く無いか足りない場合も多く見られます。
ダンボールを丸くくりぬいて、それを版として使用しても、丸の印刷は可能です。しかし、ドーナツ型の印刷はこれでは1枚しか印刷できません。インクでべとべとな中心の「島」を都度置きなおせば別ですが(笑)
これを可能にするために、枠に絹の網を張り、前記の「島」を固定したのが「シルク(絹)スクリーン印刷」の始まりと言われます。
このブログを以前からお読み頂いている方には、もう「耳にタコができる」話だとは思いますが(笑) この網を張った版をベタ置きして印刷する状態、所謂「塗る」状態は孔版印刷であり、「スクリーン印刷」の特徴を全く生かせていない事になります。
スクリーン印刷のインクは、スキージが進むにつれて、ローリング→吐出→版離れ→レベリングを繰り返さなければなりません。
なんかいつになくアカデミックな書き方(笑)
ベタ置きの場合には、このうち「吐出」と「版離れ」が完全には実現できません。これが、一番最初に書いたご相談内容の最大の原因です。
ベタ置きの場合スキージが通過してから版を取り除くまでの間、印刷物の上に、そして版の孔の中にインクが滞留していることになります。
そして版を取り除く際に一気にインクがズボっと抜けるイメージです。こうなると、版の孔の内側に多くのインクがへばりついて残ってしまいます。
ケーキやクッキーを焼く際に、生地を型に入れますが、焼かずにそのまま型を引き抜く状態をイメージすると解りやすいかもしれません。
これに対して「適正なテンションを保った版」で「適正なオフコンタクト」を取って印刷すると、スキージが進行すると同時にインクがローリングするのは勿論、スキージが通過する箇所だけが印刷物と接する(スキージが通過した瞬間に、版は印刷物から離れる)ので、インクが孔の中に滞留する時間をきわめて短くする事ができます。
これをイメージすると、インクは孔の中を通過させる、すなわちインクは落とすものという事ができます。
さて、インクが滞留する時間が長ければ長いほど孔の中に残留するインクの量は増えてしまいます。これはすなわち、印刷物に乗るインクの量が減る事に変わりありません。濃いインクを探す前に、この構造を理解し、適正な版を使用する事が本当の解決策であり、ここを見過ごすと、いつまでも薄い印刷のまま、濃いインクを探し求める事になります。
では、滲んでしまう件はどうでしょう。説明はいたって簡単です。
OHPフィルムなど表面がつるつるの物質を2枚ずらして重ね、上に兼ねたフィルムの端を定規の代わりに、緩い粘度のインクで線を引いてみましょう。まず確実に滲みます。
ベタ置きした版と、印刷物の間でこれと同じ状況が起きているという事です。
以上の様に「落とす」イメージではなく「塗る」イメージで印刷していると、採用に列挙した問題点を根本的に解決する事はできません。
「水性は版が詰まるからやめた方が良いですよ」と言うのは半分嘘で(笑)同じ版を使ってプラスチゾルインクや溶剤型インクで印刷した場合も、インクの濃度が上がらない訳はこれでおわかり頂けたかと思います。
これまで色々なご相談を頂いた中で、試しに現在使用している版を、実際に弊社に送って頂いたことが多々ありますが、満足のいく版を見たことがありません。梱包を解いた瞬間「あれ、スクリーンが破けているのか?」と思ったくらい緩い場合が殆どです。最近は、遠くの業者様のお名前でも、聞いただけでテンションの弱さが解ってしまう位(笑)